コホンと咳払いをしてから、ラズは少し声を低めた。
「一人、知り合いの人工魔術生命体に、人間と結婚して子供まで作った奴がいる」
「えっ!?」
「だから、希望がないわけじゃない。人工魔術生命体との間に子供を作ることは可能なんだよ、リッちゃん」
よく人を騙したり嘘をつくラズだが、この時の声に偽りは感じられなかった。
希望がないわけじゃない、という言葉を、リーシャは素直に受け止めた。
「まあ、そいつ以外で人間と夫婦になった奴とかいないから、できる確率とかはよくわかってないんだけどさ」
ふむふむと真剣に聞きながら、リーシャが好奇心を発揮する。
人間と結婚した唯一の人工魔術生命体とは誰なのか。
ラズの知り合いなら、その人に会ってみたりできないだろうか。
リーシャがそれらを尋ねれば、ラズは目を泳がせた。
「いや……会うのは、ちょっと無理」
「どうして?」
「そいつさ、自分が人工魔術生命体だってこと、人間に知られたくなくて隠してるんだよね。秘密をバラしたなんて知られたら、俺がトカゲの丸焼きにされちまうっての」
「そっか……。なら、仕方ないよね。会ってみたかったけど」
人間と似ているとはいえ、やはり人工魔術生命体は特殊な存在だ。
結婚に至るまでの色々な話を聞ければ、エミリオと付き合うための参考になるかもしれないと思ったが、無理ならば仕方ない。
リーシャが納得して諦めようとしていると、エリマキトカゲが喧しくなった。
「というかリッちゃん。そんなこと気にするなんて、まさかエミリオくんに襲われたりとか!?いつもクールで女の子になんか興味ないって顔してるエミリオくんもケダモノだったか!」
「そんなんじゃないから。エミリオはいつだって紳士よ」
「そーかぁ?俺の方がよっぽど紳士なエリマキトカゲだぜ?」
「紳士なトカゲなら女の子のベッドでぐーたらしてないでしょ」
「それはほら、俺はリッちゃんのペットだからさ。飼い主の寝床は俺の家ってね」
リーシャに正体がバレても、ラズはエリマキトカゲでいることの方が多い。
そんな自称ペットを片手で掴むと、リーシャはポイッと床に落とした。
それでもへこたれないのがラズである。


