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再生が終わったばかりで体が本調子でなくとも、エミリオが大学をサボることはない。
リーシャと一緒に家を出た彼は、いつも通り講義を受けた。
ついこの間まで同じ教室にいたヘレナ・メルヴェスは当然ながらおらず、エミリオはリーシャの家で確認したニュースの内容を思い出す。
昨日、謎の爆発でアルブ郊外にあるメルヴェス家の屋敷が火事になり、多くの死者が出た。
爆発の原因は未だ調査中であり、事件か事故かはハッキリしない。
ただ、その屋敷の持ち主が異端魔術集団と関わりが深かったことが明らかとなり、そちらの方面に詳しい国家魔術師達も調査を開始したとのこと。
現在の情報のみを淡々と頭に詰め込み、エミリオはそっと瞼を閉じる。
自爆して他人を殺したことに、今更罪悪感もなかった。
五百年の間、繰り返してきたエミリオの「日常」だ。
その一つを取り出して眺めたところで、自分の日記のたまたま目に入ったページを読んでいるのと同じこと。
(根本的に、変わっていませんね……。僕は)
普通の人間らしくありたいと願っても、積み重ねてきた年月に育てられた思考が邪魔をする。
(ですが、今の僕には)
リーシャがいる。
恋をすれば。愛を知れば。
いつか何か、変わるだろうか。
さて、その日の昼休みのこと。
リーシャとエミリオは中庭でお弁当を食べながら、マリーにオーチェの時と似たような報告をした。
「キャー!リッちゃん、おめでとうなの!」
「ありがとう……」
とびきりの笑顔で自分以上に喜びを表現してくれるマリーに、リーシャは照れる。
「良かったわ。エミりんが頑張ってリッちゃんを押し倒したのね!」
「違います」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ、エミりん。誰もが通る道らしいわ!」
「通りません」
「ねえねえ、それで二人の赤ちゃんとはいつ会えるのかしら?」
「まだ早いですっ!」
「そうなの?なら楽しみに待ってるわ!」
エミリオが真っ赤になってヤケクソのように答えても、マリーはニコニコ笑顔を崩さない。
本当に楽しみなようだ。
(そう言えば、人工魔術生命体って……)
リーシャはふと疑問に思う。
(子供、作れるの……?)
人間とは異なる体。
その証拠ともいえるエミリオの「核」を、昨日リーシャは目にしたばかりだ。
まだ早いと答えた彼を、リーシャはチラと見る。
(否定は、されなかった……)
しかし直接この質問をエミリオに尋ねるのは気が引けて、リーシャは帰宅したらオーチェに聞いてみることにした。


