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朝、いつも通り起きてキッチンにやって来たオーチェは、とんでもないことをエミリオから報告された。
「オーチェ、僕とリーシャは付き合うことになりました」
「は?」
目をパチクリさせ、聞き間違いだよねと言わんばかりにエミリオを見る。
「リーシャが僕の恋人になったということです。もちろん、僕の全ては彼女のものです」
「付き合う?恋人?エミリオさ、自爆のし過ぎでとうとう頭の中までちゃんと修復されなくなったんじゃないの?一回ギーフェルに診てもらいなよ」
「僕の脳内が狂っているとでも?ハァ……仕方ないですね。リーシャ、僕達が恋人同士だと証明するために、僕にキスをしてください」
「えっ!?」
サラッとハードルの高いお願いをされ、キス初心者のリーシャはたじたじに。
すると、テーブルの上に飛び乗ってきたエリマキトカゲが武器のようにフォークを構えた。
「なーにが仕方ないだエミリオくん!嬉しそうにすんなっての!後ろから殺っちゃうよ?」
ラズがフォークの先をエミリオに向ける。
脅されたエミリオはというと、やれやれと溜息を一つ。
「トカゲにはやはり檻が必要なようですね。今度はもっと頑丈なものを作ります。期待していてください」
「誰がするかっての!」
ラズとエミリオが喋っている間にオーチェは動いた。
素早くリーシャに迫り、問い掛ける。
「リーシャ、事実なの?」
「え……?」
「確かにエミリオは僕と同じくらい優秀で、料理も掃除も洗濯も仕事もできて、君のことを百の軍隊から護ることが可能な肉体と精神と魂を持った男ではあるけれど」
以前聞いたこのオーチェの条件にエミリオは当てはまるらしい。
今まで一人もいなかったので、リーシャはビックリだ。
「事実だよ、オーチェ。私は、エミリオのことが好きだから」
少し照れながらもしっかり伝えると、オーチェは難しい顔をした。
「……本当、なんだね。これは……ルイにも報告しておかないと」
「ルイって、パパのこと?」
「うん」
オーチェから父親の名前が出てリーシャはドキリとする。
彼氏ができた報告をするなら、まずは母親がいい。
それから様子を見て父親だ。
「オーチェ、まだ待って。報告なら自分でするから」
「そう?ちゃんとできる?」
できると頷き、リーシャが朝食の支度に取り掛かる。
今日はエミリオがいるからか、オーチェの手伝いを積極的にする気らしい。
パンを用意するリーシャにエミリオもくっつき、キッチンはたちまち恋人達だけの世界になった。
そんな甘い雰囲気の二人を、外野となったラズがジットリとした目で眺める。
オーチェもラズと似たような心境なのか、軽い溜息を吐き出した。
「そういやオーチェくん。気になってたんだけどさ。リッちゃんはルイくんのこと、ちゃーんと知ってるわけ?」
「知らないよ。知る必要もないからね」
「ふーん」
コソコソとした彼らの会話を、リーシャは耳にしていなかった。


