リーシャへと魔術の気が流れる。
最初から逃がしてくれる気などなかったのだと、リーシャは今頃気がついた。
(どうしよう!どうすれば……!)
どんな魔術を使って身を守ればいいのだろう。
パニック状態のリーシャに考えられるはずもなく、もうダメだ!と思った瞬間。
「怒りのマジギレラズキーック!!」
「ぐあっ!!」
エリマキトカゲが勢いよくリーシャのポケットから飛び出した。
「ラズ!?」
エリマキトカゲに顔面を蹴られたマルジェは地面に頭を叩きつけられノックアウト。
強烈な蹴りだったのか、完全に沈黙している。
「ボケッとすんな!早く逃げろ!!」
「ラズ、どうしてここに!?」
「俺をポケットに突っ込んだのリッちゃんでしょーが忘れんなっての!!」
今の今まで空気を読んで大人しくしていたラズだったが、もうそんな場合ではないと自己判断。
隠密型兵器は次の獲物を視界に捉えた。
「何よ!あんなトカゲ燃やしてやるわ!」
「はーい、それがあんたの人生最期の言葉」
瞬時に男性へと姿を戻し、背後からヘレナの口を塞いで喉を掻っ切る。
ラズの手にあるナイフが血に濡れた。
「よし!リッちゃん逃げるぞ!」
リーシャに殺しを見られないよう、自分の体で隠して犯行をおこなったその道のプロは、死体を投げ捨てるとリーシャの手を掴んだ。
そのまま屋敷から遠ざかるように走り出す。
「待ってラズ!やっぱりエミリオを置いていけないよ!」
「エミリオくんは平気だって!いいから走れ!」
「でも!」
「あのなリッちゃん。エミリオくん言ってたっしょ?“なるべくここから離れてください”って。それってつまり高確率で自爆するってことだよ!このままここにいたら巻き添えくらうぞ!」
「そんな……!?」
「そんなもこんなもないっての!ほら!」
足を止めそうになるリーシャを引きずるように駆けるラズだったが、不意に焦った表情でリーシャを庇いながら抱きしめた。


