さすがのエミリオも、何の準備も無しに悪霊魔術に対抗することはできない。
しかもここには悪霊魔術を操るプロが何人もいるのだ。
エミリオに勝機はなかった。
「っ……わかりました。貴方の言葉に従いましょう」
(エミリオ……!?そんな、ダメだよ……!)
首を絞められながらも、リーシャはエミリオの心配をする。
アンリ・メルヴェスは満足げに笑った。
「ふふ、物分かりがいいね。素晴らしい」
「ですが、まず彼女を解放して、無事に家まで送り届けてください」
「いいだろう。マルジェ!」
名を呼ばれた男が前へ進み出る。
「ここに」
「彼女を送り届けて差し上げろ。丁重に、な」
「かしこまりました」
これを合図にリーシャから悪霊の手が退いた。
首への圧迫がなくなり、リーシャは激しく咳き込む。
「ゲホッ、ゴホッ……!」
「リーシャ!」
「こちらへ。外へご案内します」
エミリオが近寄るも、温度のないマルジェの声がリーシャに掛けられた。
リーシャは不安げに瞳を揺らし、エミリオを見上げる。
「エミ、リオ……」
「僕のことは心配いりません。貴女はなるべく、ここから離れてください」
「お早く」
「っ……!わかった」
急かされて、大広間を後にする。
マルジェに従って長い廊下を通り抜け、玄関ホールへ。
こうしてリーシャだけ屋敷の外へ出た時だった。
「お待たせいたしました、ヘレナ様」
「遅いわよ!待ちくたびれちゃったわ!」
屋敷の外の広い庭では、ヘレナが待ち構えていた。
父親とそっくりの金髪が夕日を浴びて輝いている。
まさかいるとは思わず、リーシャは目を丸くした。
「貴女……!」
「ふふん、パパがなんて言ったか知らないけど、あんたはここで死ぬのよ。マルジェ!殺って!私の目の前で、こいつを苦しめてっ、苦しめてっ、苦しめて殺して!!」
「かしこまりました」


