痺れる愛のピースサイン


そして、その日の診療が終わり、更衣室で着替えていると、他に着替えていたクラークたちが「ねぇ、玄葉先生見た?」「見た見た!めっちゃかっこいいよね!」「何で医者を選んだんだろう?あんなイケメンで高身長なら、スカウトとかされてそうだよね!」なんて話をしていて、颯生の噂話は良い意味で院内に広がっていた。

「それじゃあ、お先に失礼します。お疲れ様です。」

わたしは帰り支度が終わると、更衣室に居た人たちに挨拶をしてから更衣室を出て、パンプスのヒールの音が響く廊下を歩き、裏口へと向かった。

すると、裏口から外に出てすぐに「和花。」と呼ばれ、ふと振り返って見ると、裏口のドア横の壁にもたれ掛かりながら、デニムのポケットに手を突っ込む颯生の姿があったのだ。

「颯生、、、どうしたの?」
「待ってた。俺、車だから家まで送るよ。」
「え、いいよ。バス一本で帰れる距離だし。」
「そんな寂しいこと言うなよ。送らせてよ、今日だけでいいから。」

颯生が見せるその切なげな表情にわたしは弱く、わたしは「じゃあ、、、今日だけ、お願いします。」と言った。

そのわたしの返事に颯生は笑顔を見せると「やったね!」と言い、わたしはあの頃の気持ちに戻ってしまいそうになるのを、必死に耐えた。

颯生の車は黒のハリアーで、わたしは助手席に乗せていただいた。

「颯生の車の助手席に乗っちゃって良かったの?」

わたしがそう訊くと、颯生は「和花以外に他に乗せる予定の人いないから。」と答え、わたしはその嬉しさを隠す為に「また、そんなこと言って。」と可愛くないことを言ったのだった。

そして走り出した颯生の車。

しかしわたしはこのあと、その車内から心をえぐられる光景を目撃することになるだなんて思いもしなかった。