「えっ、、、」
「何?意外だった?」
「え、だって、、、颯生、モテるでしょ。」
わたしはそう言いながら、下がってきた眼鏡を人差し指でクッと上げた。
「俺は、、、和花と別れたくなかったからなぁ。まぁ、かっこつけさせてもらえるなら、勉強が忙しくて、それどころじゃなかった、って言っとこうかな。」
颯生はそう言って、空に向けて微笑んだ。
でも、その微笑みは切なげで、そんな颯生の微笑みにわたしは胸が苦しくなった。
実は、わたしは別れる時、颯生に「好きな人が出来たから。」と嘘の理由で別れを切り出していたのだ。
本当は他に好きな人なんて居なかった。
本当は颯生のことが大好きだった。
ただ、自分に自信がなかっただけ、、、
自分が颯生に相応しい人間だと思えなくて、その苦しさに耐えられず、わたしの勝手な理由で別れていただけなのだ。
「今、、、幸せか?」
空を見上げたまま颯生が訊く。
わたしは「うん、幸せだよ。」と嘘をついた。
本当は、幸せと言えるような状況ではなかった。
しかし、自分から別れを切り出した今のわたしには「幸せ」だと強がることしか出来なかったのだ。
「そっか、幸せなら良かったよ。」
颯生はそう言うと、わたしの方を向き、優しく微笑んで見せた。
その優しい微笑みに泣きそうになるわたし。
あの頃と何も変わらない颯生の優しさに触れ、わたしはグッと涙を堪え、「颯生も早く、彼女見つけなさいよ。まぁ、颯生ならすぐ見つかるよね。」なんて、颯生を傷付けるようなことをわざと言ってしまった。
すると、颯生はわたしの方を向いたまま、少しだけ口角を上げ「和花の嘘が下手くそなところは、健在なんだな。」と言ったのだった。



