それからわたしがお風呂から上がると、ドアを開けた瞬間に颯生がわたしを迎えに来てくれ、わたしはぼやける視界の中で颯生を見つめた。
しかし、ぼやけ過ぎて目が合ってるのかすら分からない。
「迎えに来た!眼鏡ないから見えないだろ?」
そう言う颯生の表情は微かにしか見えなくて、何でこんな時に眼鏡が壊れて居るんだろうと思ってしまった。
わたしは颯生の言葉にフフッと笑うと「わたし、介護されてるみたい。」と言った。
すると、颯生は嬉しそうな声で「おっ、和花が笑った!」と言ったあと、今度は不満そうな声で「でも、介護じゃなくて、過保護って言ってくれる?」と言ったのだった。
そして颯生はわたしの手を取り、「こっち。気を付けて歩けよ?」と言った。
わたしは颯生に手を引かれ、リビングらしき場所に連れて行かれ、それからダークグレーのソファーに、ゆっくりと座らせてくれた。
「ありがとう。」
「あ!待ってて!今、髪乾かすから!」
そう言って、颯生はドライヤーを取りに行った。
「え、自分で出来るからいいよ!」
わたしはそう言ったのだが、颯生は黒いドライヤーを持って戻って来ると、テレビ横にあるコンセントにプラグを差し、「いいからいいから!」とドライヤーのスイッチを入れ、わたしの髪を乾かし始めてくれた。
自分じゃない誰かにドライヤーで髪を乾かしてもらうのなんて、美容師さん以外には初めてだ。
わたしの髪に触れながらドライヤーをかけてくれる颯生の長い指が、たまに首や耳に触れて、少しドキッとしてしまう。
あの頃はこの手と手を繋いだり、頭や頬や身体にも触れてくれるのが当たり前で、裏ピースで愛情表情をしてくれたのもこの手だったんだよなぁ。
わたしはそんなことを思いながら、大人しく颯生に髪を乾かしてもらっていた。



