痺れる愛のピースサイン


あの元自宅を出てから、どれくらいの時間歩いただろうか。

わたしが颯生に"ここに来て"と言われた桜レジデンスというマンションに辿り着いた時には、頭からどっぷりとシャワーでも浴びたくらいのびしょ濡れ様で、マンションを見上げても雨に邪魔され、前がよく見えなかった。

いや、眼鏡がないせいもあるか、、、
なんて思いながら、わたしはマンションの正面玄関から入り、とりあえずびしょ濡れのバッグの中からハンカチタオルを取り出した。

バッグの中はとりあえず無事そうで、わたしはハンカチタオルで顔を拭くと、目を凝らしながらエレベーターを探した。

ハッキリしないぼやけた世界を手探り状態で歩いて行くと、曲がり角があり、その先に扉のような物が見え、わたしはそれがエレベーターだと信じ、前へと進んだ。

そして、近付いてみるとやはりそれはエレベーターで、わたしはボタンを押した。

するとエレベーターは一階で止まっていたらしく、扉がゆっくりと開き、わたしはキャリーケースと共にエレベーターへと乗り、右側に縦に並ぶボタンに顔を近付けて"7"を探すと、そのボタンを押した。

それからゆっくりと扉は閉まり、ゆっくりと上って行くエレベーター。

この時のわたしの頭の中には、颯生のことしかなかった。

ただ、颯生に会いたい。
早く会いたい。

それしかなかった。

そして、七階に着いたのかエレベーターが止まり、ゆっくりと扉が開く。

わたしはキャリーケースを引きながら、恐る恐るエレベーターから降りると、目の前からズラッと向こう側まで並ぶドアを見渡し、目を凝らしながら"702"号室を探した。

すると、ズラッ並ぶドアの一番奥から二番目のドア横に"702"と書かれた部屋を見つけた。

多分、ここに颯生が居るはず、、、

わたしは緊張で強張る人差し指で、そっとインターホンを押した。