痺れる愛のピースサイン


気付けば、わたしは乱れた服にグチャグチャの髪の毛、涙まみれの酷い顔でベッドの上に横たわっていた。

眼鏡はどこかへ放り投げられ、見えている天井は目が悪いせいなのか、涙のせいなのか分からない程にぼやけていた。

健人は自分の気が済むまでわたしを乱した後、リビングへと戻って行き、多分煙草をふかしている。

リビングから流れてくる健人がよく吸っている"HIT START"という名の煙草のニオイに吐き気がしてきた。

まるで、わたしの身体が"健人"に関わる物全てに拒否反応を示しているようだった。

どれくらいの時間が経ったのか分からないが、わたしはゆっくりとベッドから起き上がり、まずはぼやけた視界で眼鏡を探した。

すると、微かに床に何かが落ちているのが見え、わたしはそれを拾ってみた。

それはわたしが探していた自分の眼鏡だったのだが、フレームが曲がり、とてもじゃないがかけられる状態ではなくなっていた。

眼鏡がないと、ほとんど見えない程、視力が低いのに、、、
これじゃあ、生活に支障が出る。

しかし、今はもう眼鏡ショップが開いている時間帯ではない。

明日も仕事なのに、どうしよう、、、

そう思いながらも、わたしは壊れた眼鏡をケースに入れてバッグの中にしまい、乱れた服と髪の毛をある程度に整えると、キャリーケースに入るだけの洋服と必要最低限の物を詰め込み、バッグを肩にかけ、キャリーケースを引きながら、この一年くらいお世話になった家とおさらばした。

外に出ると、日中はあんなに晴れていた空が雲で覆われ、月を隠し、ポツリポツリと雨が降っていた。

傘がなければ雨が滴るくらいの降りようだったが、傘を取りに引き返したくもない。

わたしは傘も差さず、キャリーケースを引きながら歩き始めた。

"もし何かあったら、ここに来て"

颯生のその言葉に甘え、わたしは歩いて颯生が居るはずの702号室を目指したのだった。