心地良い風が舞うある初夏の土曜日。
わたしは「ちょっと話があるんだけど、帰ってこれる?」という母のLINEから、約半年ぶりに実家に帰って来た。
わたしが中2の時に離婚した母は、現在小さなアパートで一人暮らしをしている。
一時期は再婚も考えたようだが、一人の方がラクだからと結局はパートナーも作らず、契約社員として働きながら保護猫のアズキと一緒にのんびりとした生活を送っているようだ。
「はい、珈琲。あんた、ミルクだけで良かったよね?」
そう言いながら、母はミルクのみを入れた珈琲をわたしに差し出した。
「うん、ありがとう。で、話って何?」
わたしはそう言うと、珈琲を啜る。
すると、食卓テーブルを挟み、わたしの向かいに母は腰を掛けると、「実はね!」とニコニコしながら、何やらスマホを操作し始め、それからそのスマホの画面をわたしに見せてきた。
「これ、見て!」
「ん?何これ。」
わたしはそう言い、母のスマホを手に取った。
そして画面を見てみると、そこには「婚活パーティー」という文字が浮かび上がっていたのだ。
「婚活パーティー?あれ、お母さん再婚する気になったの?」
わたしがそう訊くと、母はニコニコしたまま首を横に振り、「違うわよ!わたしじゃなくて、ひらりよ!」と言い出した。
「へっ?あたし?」
「そう!明日の14時から婚活パーティーあるから予約しといた!」
「えぇ!?明日!?ちょ、ちょっと待ってよ!そんな勝手に予約とかしないでよ!」
わたしがそう言うと、母はわたしからスマホを取り返し「だって、ひらり、、、全然彼氏の一人も作らないじゃない。」と膨れっ面で言った。



