今の動き、全然見えなかった。こんなところでチート級のステータスの高さをアピールしないで欲しい。
勇者様の手をなんとか振り払い、指輪を抜こうとするが、何故か全然抜けない。え、ちょっと待って。本気で抜けないのだけど。
指輪と格闘している私に、勇者様は驚きの事実を告げた。
「あ、それ一度はめたら死ぬまで抜けないよ」
「呪いの指輪じゃないですか! なんて物を渡してくれるのですか!」
「やだな、呪いだなんて。婚約指輪だよ」
何がおかしいのか、けらけらと笑う勇者様に殺意が湧いてくる。
それからも指輪を抜こうと頑張るが、本気で抜けない。まるで生まれた時から私の指に嵌っていたかというぐらいにぴったりだ。
まじで呪いの指輪じゃねーか。
まあいい、一旦諦めて勇者様の無駄話に付き合うとこにしよう。そして気分が良くなった勇者様にそれとなく壊してもらおう。
勇者様のチートステータスならいけるだろう。だってあの恐ろしい魔王を倒せるぐらいなのだから。
そんな事を考えながら、私はふと以前から疑問に思っていたことを投げかけた。
「というか、勇者様。毎日毎日この店に来ていますが、魔王を倒す旅は大丈夫なんですか…?」
この村は魔王城からだいぶ離れた場所にある。
勇者一行が旅に出てからもう随分と時間が経っているような気がするが、魔王討伐の進捗はどうなっているのだろうか。
しかし、勇者様は私の質問に何だそんなことかといった様子で答えた。
「ああ、魔物とか魔王とかどーでもいい。だって、俺は世界よりも君が大切だから」
無駄にキラキラしたエフェクトを背景に、とんでもない発言をする勇者様。その堂々とした様子に開いた口が塞がらない。
勇者が言ってはいけない台詞、ナンバーワンだ。お願いだから、私じゃなくて世界を大切にしてほしい。
「そんな勇者様は嫌だな…」
思わずそう本音を漏らせば、勇者様が悪い笑みを浮かべながら、顔を近づけてきた。
「じゃあ、俺が魔王を倒したら結婚してくれる?」
「………はい?」


