その後、店主があれこれと商品を勧めたがどうやら勇者一行は道具を買いにきたわけではないようで。
じゃあ何の用?と思ったが、どうやら村を立ち去るらしく、わざわざ挨拶に来てくれたようだった。
なんと丁寧な。さすが勇者一行。
感動で涙を流しながら勇者様と握手を交わす店主の後ろに控えめに立っていれば、急に勇者様が私のところへとやってきた。
「君、名前は?」
何事かと思っていれば、名前を聞かれた。……やっぱりさっきぶつかったのを怒ってるのだろうか? 答えたくないが、答えないわけにはいかない。私は恐る恐る自身の名前を口にした。
「えっと、イリアといいます…」
「イリア、いい名前だ」
「ありがとうございます…?」
なぜ、急に名前を褒められたのだろう。
突然のことで頭の中に疑問符を浮かべていれば、勇者様はくすりと笑った。
「またね、イリア」
そう言うと店から去っていく勇者一行。
扉が閉まる直前、ヒロインがこちらをすごい顔で睨んでいた気がするが無視しよう。
「………またね、って言った?」
どうせ社交辞令だ。こんな序盤の村に勇者様がもう一度来るはずない。
そう思っていたのに、それから勇者様はこの店に頻繁に通うようになってしまった。


