いやいや、勇者様のスキルがあれば魔王は倒せる。物語の結末を知っている身としては、その提案は受け入れられない。
首を横に振れば、勇者様は少しだけムッとした表情を浮かべた。
「じゃあ、どうしたら結婚してくれる?」
「いやそもそもが間違ってるんですけど…」
何で結婚するのが当然みたいな態度なんだ。そもそも私たちは恋人同士でもない。ただの道具屋とお客様だ。
しかし、勇者様は引かない。この男、本当にしつこいのだ。どうにかして世界を救ってもらいつつ、諦めてもらう何かいい方法はないかと考えて、私はひとつ閃いた。
「では、明日までに勇者様が魔王を倒せたら結婚してもいいですよ。でもその代わり、明日までに倒さなかったらもう二度と私には関わらないでくださいね」
流石の勇者様でも魔王城から数百キロも離れたこの場所から、一日で魔王城に行って、さらに魔王を倒すのは無理がある。
それともうひとつ、魔王を倒す必須アイテムである「勇者の聖剣」はヒロインとの好感度を限界まで上げておかないと手に入らないのだ。
おそらく、勇者様はそのアイテムを持っていない。それに、こんなモブ娘に求婚してくるぐらいだから、ヒロインとの仲は良好ではないだろう。なので、この賭けは私に分がある。
私の言葉に勇者様はなぜかきょとんとした表情を浮かべたが、すぐに了承した。
「約束破らないでね、イリア」
そう言って、不敵な笑みを浮かべた勇者様に何だか嫌な予感がした。だけど、大丈夫。いくら勇者様でも一日は無理だ。
「勇者様こそ、倒せなかったらちゃんと指輪も外してくださいよ」
指切りを交わして、その日は別れる。
ああ、明日から勇者様から解放されるなんて、最高に幸せだ!などと、呑気に考えながら私は眠りについた。


