隣の部署の佐藤さんには秘密がある

「すみません、水伊勢さんのお家の方でしょうか。」

 磯山は眉を顰めた。

「失礼ですが、あなたは?」
「宮島さきと申します。佐藤さ……じゃなくて、晃太さんの会社の後輩です。晃太さんの体調は大丈夫でしょうか。連絡が取れなくて心配で……」

「晃太様は体調がお悪いのですか?」
「会社を休んでいるんです。朝に休むと連絡が来たのですが、その後返信が来なくて……」

 磯山はさきのバッグにあるストラップを目に留めた。

「私は磯山と申します。宮島様、一緒に来ていただけますか?」
「え?」
「晃太様のところへお連れ致しますので、お乗りください。」

 私は挙動不審で黒塗りの車に乗り込んだ。周りをキョロキョロ見回していると車が静かに発進して慌ててシートベルトを締めた。

「私も朝から連絡をしているのですが繋がらないのです。お部屋へ伺っても返答がなく困っておりました。」
「部屋にいないのですか?」
「わかりません。」

 スマホを見てもやはり佐藤さんからの連絡はない。数分もしないうちに車は高層マンションの駐車場に入った。線路を跨いだ先にある有名な高級マンションだ。

 電車に乗るそぶりを見せていたが佐藤さんは徒歩で通勤していたのだ。ここならBARへも歩いて行ける。レセプションが開催されていたホテルだって歩いて行くことができる。立地がものすごく良い。おそらく家賃はとんでもないことになっているはず。さすが水伊勢のご子息!

 車を降りた私は磯山さんの後を追ってエレベーターに乗った。ついた場所はマンションの豪華なロビーだった。インターホンを押しても、やはり応答がないという。

「宮島様、晃太様に電話をかけていただけますか?」
「わかりました。」

 電話をかけると何回かコール音が鳴って無音になった。

「佐藤さんっ!?大丈夫ですか!?」
「…………ごめん、さき……返信……できなくて……」

 佐藤さんの声は今にも消えてしまいそうだ。

「佐藤さん!私今マンションにいます!今から行きますから!」
「え……なん……で……?」
「いいから、待っててください!」

 私はすぐに電話を切った。

「磯山さん、佐藤さん部屋にいます。動けないんだと思います。」

 磯山さんはコンシェルジュに事情を話し、部屋の鍵を強制的に解除することになった。エレベーターへ乗り込んだ私の手は小さく震えていた。

(もっと早く電話すればよかった。朝だからとか仕事中だからとか気にしないでかければよかった。そうすればこんなに酷くならなかったかもしれないのに……!)

 エレベーターを降りると目の前に扉があった。鍵を解除して部屋の扉が開くと、聞いたこともない近未来的な音がした。