隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 レセプションの日が近づいてきた。私のドキドキは、レセプションに対する物なのか、佐藤さんに対する物なのかわからなくなっていた。

 昼休み、いつものようにみゆきとランチへ向かうと、みゆきは席に着くなり私の顔を覗き込んだ。

「さき、大丈夫?」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
「佐藤さんと会えなくて落ち込んでるのかなって思って。」
「そんなことないよ。」

 佐藤さんの部署は、先日のトラブルに対処するため一時的にフロアを移動している。だから今は日中も顔を見ることがない。

「佐藤さんのとこ、徹夜だったらしいよ。」
「徹夜!?」

「なんとか今週中にやるって本城さんがわーわー言ってたから、来週には落ち着くと思うけどね。」
「そうなんだ……」
「ふふふ。佐藤さん、心配だよね~?」

 心の中を見透かされたようで驚いて顔を上げると、みゆきがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「いいな~恋してるって感じ~」
「なにそれー」

「ふふふ。私んとこは最近マンネリでさ~。ね、聞いてよ……」

 みゆきが惚気話を始めたことで、私は内心ほっとしていた。恋してる感じ……なにそれと思いながらも、完全に否定できないのが嫌だ。私は恋してるのだろううか。佐藤さんのことが好きなのだろうか。そんなことを考えながら午後の仕事を終えた。

「佐藤さん、徹夜してるのか……レセプション行けるのかな。」

 レセプションは今週末だ。徹夜続きで参戦するのだろうか。これは佐藤さんが気になるからというわけではなくて、単純に体力的に平気なのかという心配だ。そう言い聞かせながら歩いていると、後ろから声がした。振り返ると、佐藤さんがこちらに向かって走ってきた。

「はぁ、良かった。間に合った……」

 佐藤さんは息を乱しながら、前髪を整えた。顔は見えないけれど疲労感が伝わってくる。

「大丈夫ですか?すごく疲れて……ますよね?」
「うん。めちゃくちゃキツイ。」

「レセプション、今週ですよね?」
「レセプションは絶対行く。」

 佐藤さんの背筋がピンと伸びて、吹き出しそうになった。

「今日も遅いんですか?」
「まだ終わらなそう。宮島さんは帰るんだよね?」
「はい。」
「じゃ、駅まで送る。話したいことがあるから。」
 
(話したいこと……?)

 ドキドキして顔を俯けた。