隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 サンチェス=ドマーニの新作を買った次の日、私は寝不足だった。夜中までひとりファッションショーをしていたことが理由だが、その延長で佐藤さんのことを考えてしまって眠れなかった。これでは佐藤さんのことが好きみたいだ。

「おっはよう~!」

 みゆきの大きな声で飛び上がった。新作を買った次の日はみゆきに負けないくらい元気なのに、今日はそこまでテンションが上がらない。みゆきはそんな私を不審に思ったらしい。

「どうしたの?元気ないじゃん。買えなかったの?」
「買えたけど……」

 みゆきは私の顔を覗き込んだ。

「もしかして佐藤さんとなんかあった?」

 私は目を見開いた。みゆきは顔がにやけている。

「告白?出かける約束?何?何があったの?」

 みゆきは立て続けに質問をぶつけてくる。私は落ち着いてくれとみゆきをなだめてから、ふーっと息を吐いた。

「昨日、ショップで会ったの。」
「サンチェス=ドマーニに佐藤さんがいたってこと!?」
「うん。」

 佐藤さんがサンチェス=ドマーニの愛好家だなんて思いもしなかった。しかもレセプションに招待されるレベルだ。

「よかったじゃん!共通の好きなものがあるって大事だよ。でもサンチェス=ドマーニのメンズって奇抜だよね。人は見かけによらないっていうけど、すごいね。」

 赤いスーツを身にまとった佐藤さんの姿が頭の中に現れて、私は慌ててそれをかき消した。

「それで、どうしたの?」
「ちょっと話して帰ったけど……」

「何か買ってもらったとかある?」
「!」
「あるよね〜」

「なんでわかるの?」
「佐藤さんはさきのことが好きなんだから、それくらいするよ。良かったじゃん。少ない予算で多めにゲットできて。」

 佐藤さんは貧乏な私を可哀相に思って恵んでくれただけ。そういうことにしておこう。

「次のお誘いはなかったの?」
「特にないけど……?」

 レセプションのチケットをもらったけれど、佐藤さんと一緒に行くわけじゃないからお誘いとは言えない。そう、違う。

「うーん、でも佐藤さんって計画立ててそうだよね。さきをどうやって彼女にするか綿密に計画してる気がする。」
「まさか。」

 そんな計画を立てているとは思えないけど、佐藤さんからサンチェス=ドマーニのショップへ行こうとか、買ってあげるとか言われたらコロっといきそうだ。佐藤さんが私を落とすなんて簡単なことなのかもしれない。