隣の部署の佐藤さんには秘密がある

「……!」

 飛び起きると、そこは健斗のBARだった。体が汗でぐっしょり濡れていて熱い。

「なんだ……夢か……」
「モテ男が初恋拗らせてんだな。ほらよ。」

 水の入ったグラスを差し出されて、晃太は一気に飲み干した。混雑していたBARは客が誰もいない。

「ごめん、健斗。こんな時間まで……」

 スツールから降りると、眩暈がして壁に手をついた。こんなに酔ったのは久しぶりだ。

「あーあ、仕方ねぇな。」

 健斗は佐藤の腕を肩にまわした。

「いいよ、健斗。疲れてるでしょ?」
「あぁ疲れてる。だから早く自力で歩け。」

 健斗に支えられて店を出ると、夜風で頭が少しだけすっきりした。

「どんな夢だったんだ?」
「振られて、違う人と付き合うって言われた。」
「正夢になるといいな。ははは。」
「せめて違う人にして欲しい。あいつはダメだ。」
「どんな奴だ?」

 営業の八代は、見た目は営業らしく爽やかだが、気になる女性には端から声をかけて誘っている。それだけなら勝手にすればいいが、女性たちが揃いも揃って面倒そうな顔をしているのを見るのは気分が悪い。誘うならちゃんと相手を満足させろと思う。

「遊び人に取られる夢なんて、遊んでた罰かもな。」

 健斗の言う通り、今までやりたい放題やってきたから、本当に付き合いたい人と付き合えないのかもしれない。晃太はガクンと項垂れた。

「落ち込まないで?晃太ぁ♡」
「げっ。」

 晃太は健斗を突き放してコンビニへ向かった。お酒を買ってホテルに入ると、ロビーは暗かった。間接照明が妙に夜を感じさせる。夜中に男2人でホテルに入るんだから、どう思われても仕方ないけど笑えない。本当なら宮島さん(本命の彼女)と楽しく過ごしていたはずなのだ。

「楽しい夜にしようね♡」
「やめろ!」

 晃太の声が誰もいないロビーに響いた。