隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 今日は待ちに待った給料日。私は無我夢中で仕事をしていた。

「もう、お昼だよ~さき~!」
「わ、本当?気づかなかった!」

 友人のみゆきに顔を覗き込まれて、私は机の上に無造作に広げられた書類をバサバサと片づけた。

「必死すぎだよ。」
「今日は絶対に定時で帰りたいからね。」

「何かあるの?彼氏?」
「新作が出るの!今日は絶対定時に上がって見に行くんだ〜」
「サンチェス=ドマーニですか。相変わらず好きだね〜」

 サンチェス=ドマーニとは、私が全身全霊で愛を注いでいる高級ファッションブランド。今日は、定時に上がってサンチェス=ドマーニのショップへ行くと決めている。

「彼氏は作んないの?」
「私にはサンチェス=ドマーニがありますから。」

 今は給料のほとんどをサンチェス=ドマーニに使っている。彼氏に使える予算はないのだ。
 
「佐藤さんはどうなの?」

 吹き出しそうになって口を押さえた。みゆきはにやにやしながらこちらを見ている。残業を手伝ってもらったことを話してから、みゆきは執拗に佐藤さんを推してくる。

「佐藤さんはさきのこと好きそうだよ?」

 あれ以来、佐藤さんは度々私に声をかけてくれる。それとなく使えそうなデータを教えてくれたり、アドバイスをしてくれたりする。自意識過剰と言われるかもしれないけど、少しだけそう感じることはある。

「私にはサンチェス=ドマーニがありますから。」
「彼氏が洋服だとでも言うわけ?」
「みゆきも一緒に行かない?」
「今日は水曜日なので行けませ~ん。」
「あー、その日かー」

 みゆきは水曜日をデートの日に設定しているらしい。そこからは、みゆきの惚気話をいつものように笑いながら聞いていた。