隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 さきはジャケットに付いたファンデーションを取ろうと必死になっている。

(彼女を抱きしめた証拠……なんて言ったら怒るかな。)

 晃太はさきを見つめた。さきは付き合うと言ってくれた。今日は仮の彼女ではない。ちゃんとした本命の彼女だ。今日は、今日こそは大丈夫なはずだ。

「さき、もうすぐレセプションが終わる。だからこの後……」
「あ!佐藤さん、戻りましょう!ノベルティが配られるみたいなんです。絶対もらって帰らないと!」

(そう言うと思った。)

「大丈夫だよ。さきの分は確保してあるから。」
「そんな卑怯な手を使ってはいけませんよ。」
「くれるって言うからもらっただけだよ。だからノベルティのことは心配しないで、この後は部屋でゆっくりしよう?」

「懲りないですね、佐藤さんは。」

(まさか断るの?彼女なのに?正真正銘の彼氏が部屋に誘ってるのに断るの!?)

「今日はちゃんと彼女じゃん。いいでしょ?ね?行こう?」
「嫌ですよ。今日は会場で食事したいです。前回、誰かさんのせいで食べ損ねたんですから………ぅわっ!?」

 運が向いてきた。立ち上がろうとしてドレスの裾を踏んずけたさきは、見事に胸の中へ飛び込んできた。これはチャンス。晃太はそのままさきを抱き上げた。こうすればもう逃げられない。

「危ないから連れて行ってあげる。」
「何してるんですか!下ろしてください!」

「このドレス危ないんだよ。綺麗だけど引っかかりやすいから。」
「大丈夫ですよ!ちゃんと練習してきましたから!」

 晃太はさきを抱えたままエレベーターへ向かっていく。

「このまま部屋に連れて行く気ですか!?」
「そうしようかと思ったけど、会場に戻ろうかな。」

 そうすれば彼女を知らしめることができる。晃太はさきを抱えてにこにこしたままエレベーターを待っていた。

「このまま戻ったら大変なことになります。早く降ろしてください!」
「彼女をみんなに見せようと思ったのに。」
「モデルはイメージが大事なんです!KOTAは正体がわからないミステリアスなところが魅力でもあるんですから!」

 晃太は仕方なくさきを降ろした。到着したエレベーターには誰も乗っていない。完全に運が味方している。

(今日こそは絶対に成功させる!俺の本気を見せる時だ!)

 エレベーターに乗り込むと、晃太はさきを壁際へ追い込んだ。