隣の部署の佐藤さんには秘密がある

「姉ちゃんに頼んで良かった。こんな格好で歩いてたら、じぃちゃんみたいな人にひっきりなしに声をかけられちゃうからね。」
「このドレスは本店であかねさんが選んでくれたんです!本店は初めて行きました!すごいですねあのお店!」
「俺と行くはずだったのにな……」

「佐藤さんとは行けませんよ。KOTAのポスターやカタログがありましたし。」
「お店に行くときはこんな格好じゃ行かないよ。会社のスーツで行けばバレない。」
「そうかもしれませんね。」

 佐藤さんは私の手をぎゅっと握りしめた。手のぬくもりを感じて胸の奥がじんわりと熱くなる。

「さき、また付き合ってくれる?」

 涙が込み上げてきて視界がぼやけた。俯いた私の頭に、佐藤さんは優しく手を乗せた。

「……お願いします。」
「うん。」

 ふわりと抱きしめられて、私は佐藤さんの背中に手をまわした。

Citrus D’amour(シトラスダムール)じゃないんですね。」
「よくわかったね。」
「また香水が出たんですか?最近ショップには行っていなくて……」

「これはサンチェス=ドマーニの香水じゃないんだ。」
「他のブランドの香水を使っても良いんですか?」

「わからないようにしてるから。この香りは好き?」
「はい。今の佐藤さんにぴったりだと思います。」
「この香水はTu es à moiっていう名前で……」

 ふと佐藤さんのジャケットを見た私は血の気が引いた。べったりとファンデーションが着いてしまっている。いつもより厚化粧なのが裏目に出てしまった。

「どうしよう……!ファッションショーの大切な衣装が……!」
「買い取るから大丈夫だよ。」
「そういう問題じゃないですよ!」

 落ちないファンデーションをどうにかしようと奮闘する私を見て、佐藤さんは笑っていた。