隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 レセプションの会場は以前と同じホテルだった。車を降りるとあかねさんのマネージャーらしき人が近づいてきた。

「さきちゃん、ごめん。磯山さんと行ってて。」
「わかりました。」

 あかねさんは颯爽とホテルへ入っていく。あかねさんは何から何まで美しい。Akaneに見惚れていると、磯山さんに促されて私もホテルへ足を踏み入れた。

「おぉ、これは……」

 以前のレセプションでは緊張しすぎてロビーを見ている時間なんてなかったが、レセプションはすでにここから始まっていると言っても過言ではない。サンチェス=ドマーニで溢れている。

「会場へ行かれますか?」
「あかねさんを待っててもいいですか?」

 ロビーにいる人たちの着こなしを見たいなんて言えず、あかねさんを言い訳にしてしまった。

「では、少し外してもよろしいでしょうか。」
「大丈夫ですよ。1人で行けますから。」

 どこぞのお嬢様でもあるまいし、会場へ行くことくらい1人で平気だ。エレベーターがある。磯山さんがいなくなると、私は場所を移動してロビーを見渡した。あかねさんが来るまでここで観察していよう。

「来て良かったぁ。ありがとう、あかねさんっ。ふふふっ……」

 すると、目の前をピンクのスーツを着た人が通り過ぎた。

(やっぱりいた!ピンクを着てる人!)

 今日は関係者向けのレセプションだからか、落ち着いた色のスーツを着ている人が多い。その中であのピンクのスーツは目立ち過ぎている。

(あれは再販の方だな。)

 ふと見るとハンカチが落ちている。ピンクのスーツの人が落としたのかもしれない。おもむろにハンカチを拾い上げた私は手が震えた。

(こ……これはっっ!)

 世界限定10枚と言われた幻のハンカチだ。本当にこの世に存在しているとは思わなかった。もう少しじっくり見させていただきたいが、早く持ち主に返さなければ。私は慌ててピンクのスーツを着た男性に声をかけた。

「すみません、ハンカチを落としましたよ?」
「ん?あぁ、ありがとう。」

 振り向いた男性は、思ったよりも年上だったが、とても優しそうだ。それなら……

「あの……そのハンカチ、少しだけ見せていただけませんか?」
「このハンカチのことを知っているんだね。どうぞ。」
「……ありがとうございます。」

 私は受け取ったハンカチをそっと広げた。シンプルなハンカチだが、うっすらとブランドロゴが入っている。この男性が着ているスーツの色と同じショッキングピンク。そして右下にある『7』という数字。シリアルナンバーだ!

「ありがとうございました。」

 私は興奮を押し込めて丁重にハンカチをお返しした。

「このハンカチの価値がわかる人がいるとは思わなかったよ。」
「世界限定の物を見られるとは思いませんでした。スーツと合わせるなんて素敵ですね。」

「このハンカチを手にした時にどうしてもこのスーツが欲しいと思ってね、再販して良かったよ。」
「とてもお似合いです!」

「ありがとう。ハンカチを拾ってくれたお礼に、良かったら一緒にコーヒーでもどうかな。」
「ふふふ。」

 思いがけずお誘いを受けてしまった。コーヒーなら一緒に飲んでもいいだろうか。どうやってこの世界限定品を手に入れたのか聞きたい。レセプションが始まるまでの少しの時間なら良いかと思っていると、背後からあかねさんの声がした。