隣の部署の佐藤さんには秘密がある

「わぁぁぁぁ!」
「もしかして、始めて来た?」
「はい!」

 長いこと行きたいと思っていたが、ふらっと立ち寄るにはハードルが高く、どうにも決心がつかなかった憧れのサンチェス=ドマーニの本店。

「晃太と一緒に来てるのかなと思ったけど、先越しちゃったわね。」

 本当ならこんな会社帰りの適当な服で来てはいけないのかもしれないけれど、今日はAkaneと一緒だ。Akaneの付き添いだと思えばなんでもできそうな気がしてくる。

「レセプションの服は決まってる?」
「2着しかないので、どっちかにしようと思います。」

「せっかくだから新しいのにしたら?選んであげるから。」
「ほ……本当ですか!?あ、でも、私お金がちょっとですね……」

「そういうのはいいのよ。持ってる服は何色?」
「黒と緑です。」
「じゃ、今回は青ね。」

 Akaneは私にサンチェス=ドマーニを授けてくれた人。その人に服を選んでもらえるなんて夢みたいだ。Akaneは店内を歩いているだけで輝いている。

「綺麗だなぁ、あかねさん……」

 優雅に店内を歩くAkaneに見惚れていると手招きをされた。

「バッグは持ってる?」
「はい。」
「どういうやつ?」
「これです。」

 私は佐藤さんに買ってもらったバッグを持ち上げた。

「靴は?」
「持ってません。」
「晃太は買ってくれないの?」

「バッグもペンダントも買ってもらいましたから……」
「それだけ?」
「はい……」

 これ以上買われてしまったら借金が増えてしまう。

「とりあえずこんな感じでどう?」

 あかねさんが選んだのは、深い青色を基調としたウェディングドレスのように華やかでボリュームのあるドレスだ。

「これ、あかねさんが雑誌で……」
「そうなの!見たことあるの?」
「はい!」

 Akaneが佐藤さんのお姉さんだと知った時に立ち読みした雑誌に載っていた。ドレスは堂島屋のショップにはない。胸が高鳴りすぎて苦しい。

「よし、さきちゃん。試着っ!」

 店員さんがテキパキと品物を携えて、奥にある大変広い試着室へ案内してくれた。試着は短時間で終えなければならない。でも自信がない。私はゆっくり深呼吸をしてからドレスに袖を通した。

「わ……!」

 シンデレラは魔法にかかった時、こんな感じだったと思う。

(あぁ幸せ……!出たくない……!)

 試着室から出られなくなるからよく見ないようにしようと思っていたのに、目が離せなくなってしまった。私は早く出なければいけないという思いと葛藤しながら、鏡の中の自分を見つめた。