隣の部署の佐藤さんには秘密がある

 仕事を終えた私は、健斗さんのBARへ向かった。BAR へ来たのは佐藤さんに別れを切り出した日以来だ。

「いらっしゃい。お酒にしますか?」
「……はい。」

 健斗さんのBARにはサンチェス=ドマーニのピンクのスーツを着たKOTAのポスターが貼られている。そのおかげか、いつもより女性客が多い気がする。
 
 サンチェス=ドマーニを着ていようともKOTAの写真を見ることは平気になった。スマホに送られてきた写真を見ることができなかったあの頃が懐かしく思える。

「あれで街中歩いていたとか信じられません。」
「そうですね。あの状態から、よく今の状態に変わったと思いますよ。」

 健斗さんが出してくれたカクテルは、佐藤さんの写真を見る訓練をしていた時に飲んだ鮮やかなピンクのカクテルだ。これは可愛らしい見た目に反して中々アルコールが高い。一口飲んだだけで、体が熱くなってきた。

「また、会ってやってくれませんか?」

 会いたくないわけではない。でも、佐藤さんは私が知っている佐藤さんではないかもしれない。佐藤さんはモデルのKOTAで、水伊勢家の次男。その隣に私はいてはいけない。

「あの、いつも払わずにすみませんでした。今日は払います。」

 これまでは健斗さんと佐藤さんに甘えてきたが、別れてしまったからこれからは自分で払わなければならない。お財布を出そうとすると、健斗さんはニコニコしながらメニュー表を見せてきた。

「それ、これですよ?」

 健斗さんが指さすカクテルは、言葉を失うほど高かった。

「元カレにツケますから。」

 私はペコペコと頭を下げて店を出た。カクテル1杯であんなにするとは思わなかった。

「もう行けないな。」

 金額が高いというのもある。だけど、あの場所には佐藤さんとの思い出がありすぎる。しんみりとした気分で帰宅すると、ポストに手紙が入っていた。封筒には綺麗な文字で『宮島さき様へ』と書かれている。封筒を裏返した私は目を見開いた。

「水伊勢あかね!?」

 私は部屋に入るなりすぐに封を開けた。中には手紙とサンチェス=ドマーニのレセプションチケットが1枚。まさかAkaneに招待されるとは思わなかった。恐る恐る手紙を開くと達筆な文字が並んでいる。

「佐藤さん、ショーに出るんだ。あのレセプションのショーに……」

 手紙には、佐藤さんがショーに出るからレセプションに来て欲しいと書かれている。レセプションで見たショーのモデルたちは、非の打ち所がない着こなしをしていた。でも、佐藤さんの着こなしが1番好きだった。佐藤さんならサンチェス=ドマーニのモデルたちと並んでも引けを取らないはずだ。いつの間にか床にぽたぽたと涙が落ちていた。