「宮島さん、こんな時間だけど、電車あるの?」
隣の部署の佐藤さんが心配して声をかけてくれた。慌てて時計を見たら、終電まであと30分に迫っている。最後まで終わらせたかったが、間に合いそうにない。できるところまでで良いと上司の橋本さんは言ってくれていた。ここまでで諦めるしかない。
「すみません。もう帰ります。」
すると、佐藤さんが私のパソコンを覗き込んだ。
「これ、知ってるかも。ちょっと待ってて。」
佐藤さんは消したはずのパソコンを立ち上げた。今私が作成している資料は、以前佐藤さんがいた部署で使っていた物だ。仕事の内容が移行したばかりで現在は試行錯誤中。だからこんなに時間がかかっている。
「佐藤さんは終電大丈夫なんですか?」
「うん。」
佐藤さんの部署はいつも帰りが遅いのに、今日は佐藤さんしか残っていない。そうこうしているうちに佐藤さんは何かを印刷し始めた。2人しかいない静かなフロアにコピー機の音が響いている。印刷が終わると、佐藤さんは手際よく書類をまとめて私に差し出した。
「これ使ってみて。古いけど修正すれば使えると思う。データは共有に入れといた。」
私は佐藤さんから受け取った資料をパラパラめくった。これを使えば明日中には完成させることができる。
「ありがとうございます!」
「帰れそう?」
「はい!」
私は佐藤さんと一緒に電気を消して会社を出た。
「今日はみなさん早かったですね。」
「飲み会だからね。」
「えっ、行かなくていいんですか?」
「そういうの苦手なんだよね。」
だからって1人でこんな遅くまで残業するなんておかしくないだろうか。佐藤さん1人に負担がかかり過ぎているのではないだろうか。佐藤さんの上司・本城さんは優秀だけど、マネジメントは上手くない気がする。だって本城さんの部署だけ残業多いし、みんな疲れてるし、佐藤さんが飲み会苦手なのを無視して残業させてるし!
「佐藤さん、今の部署でうまくやれてますか?」
「うん、楽しいよ。」
あんなに毎日残業している部署が楽しいの!?異動したら地獄の部署なんて言われてるのに!?
「それに、宮島さんの部署の隣だから……なんちゃって。」
佐藤さんの顔を見てもどんな表情をしているのかわからない。というのも、佐藤さんは前髪を大量に下ろしており、さらに黒縁メガネをかけている。最近はマスクもしているから、全く顔が見えないのだ。
そんな見た目だからか、社内で佐藤さんに話しかける人はほとんどいない。同じ部署の人と仕事のことだけを話すイメージだ。飲み会が苦手だというのも理解できる。そんな佐藤さんが冗談を言うとは思わなかった。私は思った以上に動揺していたらしい。
「っと。危ないよ。」
前から歩いてきた人にぶつかりそうになってしまい、佐藤さんに腕を引かれた。なんなんだろう、このドキドキは。
「ちゃんと前見ないと。って、俺が言うことじゃないか。」
「ふふふ。そうですね。」
前を見ないといけないのは、顔が見えない佐藤さんの方だ。私は堪えきれずに笑ってしまった。
「……わいい。」
「?」
「なんでもない。」
駅に到着して時計を見ると、まだ終電まで時間があった。
「間に合いそうだね、よかった。じゃあね。」
そう言って佐藤さんは、反対側へ行こうとする。
「佐藤さんは電車じゃないんですか?」
「俺は向こう。」
「地下鉄なんですか?すみません、こっちまで……」
「ううん。じゃ、また明日。」
「はい。失礼します!」
私は佐藤さんに頭を下げて改札へ向かった。地下鉄ならば早く言って欲しかった。まるで送ってくれたみたいだ。私はドキドキする胸を押さえながら電車に乗り込んだ。
隣の部署の佐藤さんが心配して声をかけてくれた。慌てて時計を見たら、終電まであと30分に迫っている。最後まで終わらせたかったが、間に合いそうにない。できるところまでで良いと上司の橋本さんは言ってくれていた。ここまでで諦めるしかない。
「すみません。もう帰ります。」
すると、佐藤さんが私のパソコンを覗き込んだ。
「これ、知ってるかも。ちょっと待ってて。」
佐藤さんは消したはずのパソコンを立ち上げた。今私が作成している資料は、以前佐藤さんがいた部署で使っていた物だ。仕事の内容が移行したばかりで現在は試行錯誤中。だからこんなに時間がかかっている。
「佐藤さんは終電大丈夫なんですか?」
「うん。」
佐藤さんの部署はいつも帰りが遅いのに、今日は佐藤さんしか残っていない。そうこうしているうちに佐藤さんは何かを印刷し始めた。2人しかいない静かなフロアにコピー機の音が響いている。印刷が終わると、佐藤さんは手際よく書類をまとめて私に差し出した。
「これ使ってみて。古いけど修正すれば使えると思う。データは共有に入れといた。」
私は佐藤さんから受け取った資料をパラパラめくった。これを使えば明日中には完成させることができる。
「ありがとうございます!」
「帰れそう?」
「はい!」
私は佐藤さんと一緒に電気を消して会社を出た。
「今日はみなさん早かったですね。」
「飲み会だからね。」
「えっ、行かなくていいんですか?」
「そういうの苦手なんだよね。」
だからって1人でこんな遅くまで残業するなんておかしくないだろうか。佐藤さん1人に負担がかかり過ぎているのではないだろうか。佐藤さんの上司・本城さんは優秀だけど、マネジメントは上手くない気がする。だって本城さんの部署だけ残業多いし、みんな疲れてるし、佐藤さんが飲み会苦手なのを無視して残業させてるし!
「佐藤さん、今の部署でうまくやれてますか?」
「うん、楽しいよ。」
あんなに毎日残業している部署が楽しいの!?異動したら地獄の部署なんて言われてるのに!?
「それに、宮島さんの部署の隣だから……なんちゃって。」
佐藤さんの顔を見てもどんな表情をしているのかわからない。というのも、佐藤さんは前髪を大量に下ろしており、さらに黒縁メガネをかけている。最近はマスクもしているから、全く顔が見えないのだ。
そんな見た目だからか、社内で佐藤さんに話しかける人はほとんどいない。同じ部署の人と仕事のことだけを話すイメージだ。飲み会が苦手だというのも理解できる。そんな佐藤さんが冗談を言うとは思わなかった。私は思った以上に動揺していたらしい。
「っと。危ないよ。」
前から歩いてきた人にぶつかりそうになってしまい、佐藤さんに腕を引かれた。なんなんだろう、このドキドキは。
「ちゃんと前見ないと。って、俺が言うことじゃないか。」
「ふふふ。そうですね。」
前を見ないといけないのは、顔が見えない佐藤さんの方だ。私は堪えきれずに笑ってしまった。
「……わいい。」
「?」
「なんでもない。」
駅に到着して時計を見ると、まだ終電まで時間があった。
「間に合いそうだね、よかった。じゃあね。」
そう言って佐藤さんは、反対側へ行こうとする。
「佐藤さんは電車じゃないんですか?」
「俺は向こう。」
「地下鉄なんですか?すみません、こっちまで……」
「ううん。じゃ、また明日。」
「はい。失礼します!」
私は佐藤さんに頭を下げて改札へ向かった。地下鉄ならば早く言って欲しかった。まるで送ってくれたみたいだ。私はドキドキする胸を押さえながら電車に乗り込んだ。



