「なぁ、もう一回俺と
付き合ってみない?」

こいつ、まだ懲りてない。
何も、わかっていない。

「お断りね。
そこらにいる女と
遊んどきな。」

あたしが言うと、
裕也は表情を変える事なく、
言った。

「そういう所は
変わってないんだな。」

ふっ。と笑い、
あたしの耳元で言った。

「暗黒の蝶」

その言葉を言い捨てて、
裕也は教室を出て行った。

「おい、山崎?
先輩の事知ってたのかよ!?」

「あ、うん。
ちょっと昔ね。」

そんなことより、
裕也が言った言葉が
頭から離れない。

"暗黒の蝶"

あたしのもう一つの
名前。と言った方が
わかりやすいだろう。

捨てた名前。

もう、あたしは暗黒の蝶
じゃない。
山崎美乃里。
列記とした女子高生。


(大丈夫、大丈夫)

混乱しそうな脳内に、
声を掛ける。


「授業を再開します。」

先生が仕切り直し、
授業が始まる。

授業と行っても、
誰一人聞きやしないんだけど。