ページのすみで揺れていたもの

藤澤はバッグから聴診器や血圧計を取り出して、慣れた手つきで準備を始めた。

藤澤「起きられる?」

「……ちょっとだけなら」

藤澤「じゃ、背中向けて。服ちょっとめくる」

言われた通りに体を動かすと、
冷たい聴診器が背中に当たった。

藤澤「深呼吸して。吸って――吐いて。……もう一回」

淡々とした声と、手際のいい動き。

どこか安心する、
“いつもの先生”の空気だった。

藤澤「喘鳴は……まあ、ないな。今は落ち着いてる。
 けどちょっと呼吸浅いな。寝てたら悪化するタイプ」

「……それ、ただの風邪じゃないってことですか?」

藤澤「さあ? 風邪かも。いや、違うかも?医者も万能じゃないからな」

そんなことを言いながら、
今度は血圧計を巻いて、数値を確認する。

藤澤「お、わりと優秀」

「それ、患者に言う言葉ですか」

藤澤「いや、俺の巻き方が優秀ってこと」

「……やっぱり自己評価高い」

笑いながらそう言うと、
藤澤も小さく笑った。

そんなふうに、
ふたりでゆるく会話しながら、
聴診や触診、問診が一通り終わったころ。

空気がふっと、静かになった。

私は何も言わなかったけれど――
その沈黙の意味を、藤澤はちゃんと分かっていた。

視線を合わせると、
彼は今までの柔らかい雰囲気をすっと引きしめて、
少しだけ声を落とした。

藤澤「……そろそろ、現実と向き合ってもいい頃じゃないか」

その言葉は、どこにも強さはなかった。

でも――逃げ場も、なかった。

布団の中で、私は唇を噛みながら、
何も答えられずに、ただ視線を落とした。