まだ胸の奥に違和感は残っていたけれど、
呼吸は落ち着いていた。
気づけば藤澤先生は、ソファの横の床に座り込んで、
背中を壁に預けていた。
部屋の灯りは落ちて、
カーテンの隙間から入る街灯の光が、微かに輪郭を照らしている。
あの時と同じように――
背中に人の気配を感じながら、
私は静かに意識を手放していった。
⸻
次に目を覚ましたとき、
部屋はすでに朝の光で満たされていた。
ソファから身を起こすと、
藤澤先生の姿はなかった。
だけど、ローテーブルの上に小さな紙切れと、
コンビニの袋がそっと置かれていた。
メモには、達筆な字でこう書かれていた。
⸻
「おはよう。
本当はお粥でも作ろうかと思ったけど、場所分かんねぇし、起こすのも悪くてコンビニにした
ポカリとゼリー、適当に置いとく
目が覚めたら、電話しろ」
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私は、気づけば笑っていた。
昨日まであんなに苦しかったはずなのに、
胸の奥にふわっとあたたかいものが残っていた。
人の手で安心して眠った夜。
こんなふうに、ちゃんと目覚められたのは……どれくらいぶりだろう。
私はそっとスマホを手に取り、
保存してある“藤澤 海”の名前に指を伸ばした。

