ページのすみで揺れていたもの

沈黙の中で、
お互いの記憶がぴたりと重なった。

あの時、崩れたトンネルの中で。
私が必死に押さえていた止血の手を、代わってくれた医師。

あの人が――目の前にいる、この人だった。

藤澤「5年ぶりか」

藤澤がふと、ぽつりとつぶやいた。

藤澤「……看護師として、立派に育ったな」

そう言って、ふいに手を伸ばしてきて、
私の頭をくしゃっと撫でた。

不器用だけど、どこか懐かしい、あの時と同じ撫で方。

(……やっぱり、あのときもこの手だった)

胸の奥が、じんわり熱くなる。

でも次の瞬間、藤澤は口角を上げて、少し茶化すように言った。

藤澤「……ただ、誤魔化すところは成長してないみたいだがな。あの時も確か腕と肋骨かばってたのに大丈夫とか言ってたよな。」

「……っ、それは……」

言い返そうとしたけれど、苦笑しか返せなかった。

藤澤「もう寝ろ。……疲れただろ」

最後のその一言は、
感情を詰め込まない、いつも通りの“先生”の声だった。

さっきまで張り詰めていた胸の奥が、
ようやく、ゆっくりと呼吸できるようになっていた。