ページのすみで揺れていたもの

ふと、隣にいる藤澤が静かに口を開いた。

藤澤「……あのときの学生は、お前だったんだな」

私は、ハッとして彼の方を見た。

藤澤は遠くを見ていた。

けれど、その目は、明らかに“今”と“あのとき”を繋げていた。

藤澤「俺、現場にいた。ドクターカーで入ってた。
 出血性ショックの女性、倒れてるの見つけたとき、
 そばで付きっきりで止血してたやつがいて……
 “看護学生です”って名乗って、
 自分も腕や肋骨やってんのに、必死で止血してた」

私の喉の奥が詰まった。

藤澤「忘れるわけないだろ。
 あの時、自分の怪我なんか関係ないみたいに動いてて――
 正直、背筋が伸びた」

息を飲んだ。

(……覚えてくれてたんだ)

「ありがとうって……言われたんですよ。
 でも私、ほとんど何もできなかったのに」

藤澤「それでも助けようとしてたろ。
 そういうの、現場で一番伝わるんだよ」

私は言葉が出なかった。

ただ、心のどこかで――
ずっと引っかかっていた何かが、
ようやく“ほどけていく”ような音がした。