ページのすみで揺れていたもの

(……どうしよう……声が、出ない)

必死に空気を吸い込もうとする。
でも喉の奥が塞がっていて、吸っても吸っても空気が足りなかった。

藤澤『……須藤?』

その名前が、ようやく電話口から聞こえた。

「……っ……」

でも、返事はできない。

藤澤の声色が、わずかに変わったのが分かった。

藤澤『……どうした? おい、聞こえてるか?』

その直後。

電話越しに、ヒュウッと小さな呼吸音が漏れた。

藤澤『……これ、喘鳴か?』

一気に声のトーンが切り替わった。
眠気は完全に消えていた。

藤澤『須藤、吸入器近くにあるか? 』

それでも返事はなかった。

「……っ……ひ……ゅっ……」

喘鳴の音だけが、スマホ越しに届く。

藤澤『……いいか、今すぐ行くから電話切るな。聞こえるか? 切るなよ』

その言葉に、指先がわずかに動いた。
答えられないけれど、画面の「通話中」の文字が、
“繋がってる”という唯一の支えになっていた。

遠くで何かのドアが開く音。
車のキーがカチャリと回される音。
エンジンの始動音とともに、
彼の息が少しだけ荒くなるのが聞こえた。

藤澤『もうすぐ着く。何があっても、切るなよ。絶対だ』

その声が、スマホから漏れる空気よりも
ずっと深く、私の胸を満たしていた。