ページのすみで揺れていたもの

診察室に入ると、赤井先生はパソコンの画面を見ながら、
静かに手元のカルテに何かを書き込んでいた。

赤井「……おかえり」

「ただいまです」

少し照れくさく答えると、先生は笑ってこちらを見た。

赤井「血液検査の結果ね――白血球数の値はやっぱり高いね。
 でも今回は、症状的には軽い喘息の再燃と、風邪の合併っぽいかな。レントゲンでは肺炎とかそう言うのはなかったし。」

「……そうなんですね」

ほっとしたような、でもどこか引っかかるような、曖昧な安堵感が胸に残った。

赤井「風邪薬と、喘息用に吸入薬出しとくね。
 あとはしっかり休むこと」

「はい……ありがとうございます」

一通りの説明が終わった後、
赤井先生はちらりと藤澤を見て、軽く肩をすくめる。

赤井「白血球の数値の件は――まあ、あとは藤澤に任せた」

「……え、え?」

赤井「だって彼、君の主治医みたいな顔してここまで来たんだから。
 全部やってくれるでしょ」

横で藤澤先生が、小さく鼻で笑っただけで何も言わなかった。

でもその沈黙が、否定じゃないことだけは分かった。



病院の外に出ると、
夕方の空が、わずかにオレンジ色を帯びていた。

藤澤「送ってくぞ」

「……すみません、今日一日つきっきりで」

藤澤「目を離せないちょっと厄介な患者のため、だろ?」

ニヤっとしながらこっちを見てくる。

駐車場までの道を歩きながら、ふと藤澤が言った。

藤澤「……ゆっくり休めよ。薬飲んで、飯食って寝ろ」

「はい……」

藤澤「なんかあったらすぐ連絡――」

そこで彼は一度言葉を切った。

藤澤「……あ、連絡先、言ってねえか」

「……知らないですね」

藤澤「じゃあ、これ。なんかあったら連絡してこい。まあなんかなくても暇電もたまには付き合ってやるよ」


「ありがとうございます?」

藤澤「なんで疑問形なんだよ」
と笑う彼。

(なんだろう、この距離感)

近すぎず、でも遠すぎない。
心地よくもあり、少しだけ怖くもある。