ページのすみで揺れていたもの

「……ん……」

ゆっくりと目を開けると、
処置室の天井が、思っていたよりも柔らかい色をしていた。

しばらく視界をぼんやりとさまよわせてから、
ふと視線を右へ向けると――

「……」

藤澤先生が椅子に座って、静かに本を読んでいた。

白衣ではなく、私服。
片手には文庫本、もう一方の手は組んだ足の上に置かれている。

驚くほど自然な姿だった。

私が起き上がろうとすると、
本を閉じずにそのまま目だけをこちらに向けて、静かに言った。

藤澤「起きた?」

「……はい。すみません、寝ちゃってて」

藤澤「寝ろって言ったのは俺だ」

そう言って、本のページを指で押さえたまま、体勢を少し変える。

藤澤「点滴はもう終わってる。検査の結果も、そろそろ出てる頃だ」

その言葉を聞いた瞬間、
ほんの少し、胸の奥がざわついた。

藤澤「……赤井のところに行けそうか?」

私がうなずくと、藤澤は立ち上がって
バッグとファイルを手に取りながら言った。

藤澤「ついてく。どうせ、一人で行かせたらまた話半分しか聞かねぇだろ」

「……それは否定できません」

そう返すと、藤澤の口元がわずかに緩んだ。

私はそっとベッドから降りて立ち上がり、
藤澤先生と並んで診察室へ向かった。

歩いていく廊下は静かで、
床を踏みしめる音だけが小さく響いていた。