ページのすみで揺れていたもの


「須藤さん、どうぞー」

名前を呼ばれて、私は少し緊張しながら立ち上がった。

横に座っていた藤澤先生を見ると、
「行ってこい」と無言の視線で頷かれた気がして、
私は小さく会釈して診察室へ入った。

診察室の中には、白衣を着た柔らかそうな雰囲気の医師が座っていた。

赤井「こんにちは、内科の赤井です。今日はどうされましたか?」

「……あ、あの……ちょっと風邪気味で、食欲がなくて。
 熱も少しあるので、点滴だけお願いできたらと思って」

できる限り自然に、あっさりと。
いつもの患者さん対応のテンションを真似るようにして言葉を並べる。

けれど赤井医師は、私の話が終わる前から、どこかニヤリとしていた。

赤井「なるほど、“風邪”と。……で、点滴だけで帰りたいと」

「あ、はい……」

赤井「うん、うん……」

そう言いながら、赤井先生は手元のカルテを確認するふりをして、
軽くため息をついた。

赤井「……あのさ、須藤さん。
 実はさっき、君を連れてきた人から連絡受けてるんだよね」

「……え」

赤井「“そっち行かせるけど、もし症状とか誤魔化すようなこと言ったら、即呼べ”って。
 ……怖いでしょ、あの人。昔からあの調子だからさ」

私は思わず沈黙した。

先生は私の様子を見て、少しだけ笑った。

赤井「冗談。でも、マジで心配してたよ。……藤澤とは同期なんだ、大学の」

そう言って、やわらかい声で続ける。

赤井「点滴だけじゃなくて、一応レントゲンと血液検査だけでもしよう。」

私の胸の奥が、静かに揺れた。

“点滴だけ受けて、あとは何もなかったことにしよう”
そう思っていた自分の計算が、すべて見透かされていた。