ページのすみで揺れていたもの

「……点滴だけなら、受けに行きます」

ようやく口にしたその言葉に、
藤澤先生は特に表情を変えなかった。

でも、私のほうがちょっと居心地悪くなって、
そっと目をそらす。

「ただ……勤務先は、ちょっと。あそこに行くのは今はきついです」

藤澤「知ってる。最初から選択肢に入れてねぇよ」

「じゃあ、近くの総合病院とか……」

藤澤「一緒に行くなら、どこでもいい」

「え?」

藤澤「お前、平気な顔して途中で帰るとかしそうだから」

「……しませんって」

藤澤「信用してない」

一切の迷いなく言い切られた。
しかも否定できない。

「……分かりました。近くだと△△病院でもいいですか?歩いて10分くらいなので」

藤澤「歩いて行かせるわけないだろ。車で来たんだから送っていく」




車の中では、特に大した会話はなかった。
ただラジオから流れるニュースの音と、
交差点で止まるたびに響くウィンカーの音だけが、妙に耳に残った。

病院に着いて受付を済ませたあとも、
藤澤は当たり前のように隣に立っていた。

「もうここからは一人で大丈夫です」

藤澤「……じゃあ呼ばれるまでな」

「……ありがとうございます」

並んで座った待合の椅子。
二人分の距離がやけに近くて、
でもその距離が、不思議と心強かった。


そんなことを思いながら、私は名前が呼ばれるのを静かに待った。