ページのすみで揺れていたもの

冷たい聴診器が胸に当たる。

藤澤「……あれ、喘息持ち?」

聴診器を当てながら、藤澤がつぶやくように言った。

「……え?」

藤澤「軽い喘鳴、聞こえる。」

「あ……子どものころ、小児喘息でした。
 でも高校くらいにはもう、出てないです」

藤澤「ん〜、再燃かな」

そう言いながら、背中にも聴診器を当て直す。

藤澤「苦しくない? 呼吸、きつくなったりしてない?」

「……ないです。今のところは」

少し間をおいてしまった。

藤澤は視線を逸らさず、次の質問を投げてきた。

藤澤「飯、ちゃんと食えてるか?」

「……食べてますよ、一応」

藤澤「一応?」

「……パンとか、おかゆとか、ちょっとずつ」

藤澤「それ“食えてる”って言わねぇからな」

藤澤は、また小さくため息をついた。

藤澤「体力落ちてるし、熱もあるし、呼吸も怪しい。
 ……点滴だけでも受けに来い」

「……え?」

藤澤「水分も栄養も足りてない。
 今は入院とか言わねぇから、最低限、点滴だけでもしとけ。
 じゃないと、そのうち本当に動けなくなる」

私は返事ができなかった。

優しい言葉ではない。
でも、“今すぐ全部どうにかしろ”とも言っていない。
ただ、「できるところからでいい」と言ってくれていた。


迷いと恐れと、少しの安心が、胸の中で静かにぶつかっていた。