ページのすみで揺れていたもの

病院から離れた翌日。
目が覚めたのは、朝の9時を過ぎた頃だった。

大学生ぶりに、アラームをかけずに寝て、

久しぶりにゆっくり淹れたコーヒー。
冷凍庫に残っていたパンケーキを焼いて、バターと蜂蜜をかける。

いつもなら食べる時間すら惜しんでいた朝食を、
今日はゆっくり、ちゃんと味わえた。

外に出ると、空気は少しひんやりしていたけれど、心地よかった。

近くの河川敷を散歩して、
読みかけの小説をカフェで読み終えて、
夕方になったら、なんとなく惣菜を買って帰った。

そんな日々が、気づけば5日も続いていた。

不思議なことに――体調は、ずっと良かった。

だるさも、熱も、息苦しさもなかった。
むしろ、今までより身体が軽いくらいだった。

(やっぱり……一時的な異常だったのかも)

血液検査。
白血球5万。
白血病の可能性。

藤澤先生のあの表情。

すべてが、遠くのことのように感じた。

「……もしかして、ただのストレスだったりして」

独り言のように呟いて、笑った。
誰にも見られていないからこそ、言えた言葉だった。

スマホのカレンダーには、空白が続いている。
スケジュールに追われない日々は、どこか夢みたいで――
でも、少しずつ現実感が薄れていくのも、わかっていた。

頭の片隅には、まだ「戻らなきゃ」という声がある。
だけど、今はまだ、それを聞こえないふりでやり過ごしている。

“生きてるって、こういうことだったっけ?”

ほんの少しの幸せと、
ほんの少しの現実逃避。

私は、静かに揺れる日々の中で、
“元気なままで終われたらいいのに”という、ありえない願いを抱いていた――