ページのすみで揺れていたもの

空がすっかり明るくなった頃、私はようやくスマホを手に取った。

約束した通り病院へ再度電話をかけた。

コール音が数回続き、ようやく繋がる。

「はい、〇〇総合病院です。」

「あの……救急外来看護師の須藤です。救急外来に繋げてもらえますか?」

再度コール音がする。

「はい、救急外来看護師の〇〇です」

「先輩...お疲れ様です。須藤です。師長っていますか?」

一瞬の間。
そして、返ってきた声は――予想していなかったものだった。

『須藤?』

「……!」

聞き慣れた、低く落ち着いた声。
一瞬で心臓が跳ねた。

「な、なんで先生が……」

藤澤『俺がたまたまナースステーションにいて、電話取った看護師が須藤さんからですって声がしたから代わった。
師長は今別対応中。』

「そうですか...また掛け直すって伝えてください」

慌てて通話を切ろうとしたそのとき――

藤澤『――切るな』

その言葉が、真っ直ぐに刺さった。

「……」

藤澤『逃げたい気持ちはわかる。でも、逃げ続けても何も終わらない。
 今のお前に必要なのは、少しでも確かな情報と、冷静に向き合う時間だ』

私は、ただ黙っていた。
でも、スマホを握る手が、じわじわと汗ばむ。

藤澤『俺にも、どうしても助けられなかった患者がいた。
 あのとき“検査だけでもしておけばよかった”って何度も思った。
 でも本人が拒んだ。それで終わった。
 助けられる可能性は、ゼロじゃなかったはずなのに』

「……」

藤澤『今ならまだ間に合う。逃げたままにするな』

その言葉に、胸の奥にずっと押し込んでいたものが、音を立てて揺れた。