ページのすみで揺れていたもの

翌日は、もともとシフトが入っていなかった。

家でゆっくりと眠って、何もせず過ごす時間。
体調は思ったより早く戻って、熱もなく、食欲もあった。

少しだけ、気まずさのようなものが胸に残っていたけれど――
「大丈夫そうなら、気にしないでおこう」
自分にそう言い聞かせた。

そして、2日後。

いつも通りの朝。
制服に袖を通し、ナースステーションに顔を出す。
当たり前の日常が、何事もなかったかのように流れていた。

「須藤さん、おはよう〜!体調もう平気?」

「はい、大丈夫です。ご心配おかけしました」

先輩にも、自然に笑って返せるくらいには戻っていた。

検温、申し送り、処置室準備。
気づけば、いつものように身体が動いていた。

そんな中――

少し離れた場所から、藤澤先生がこっちを見ているのに気づいた。

ナースステーションの奥、カルテをめくる手が止まっていた。

目が合いそうで合わない距離。
彼は一瞬こちらに視線を向けたけれど、すぐにカルテへと視線を戻した。

そのまま何事もなかったかのように、処置室へと歩いていった。

声はかけられなかった。

でも、見られていたことには、なんとなく気づいていた。

私はただ、それに気づかないふりをして、処置室の扉を開けた。

まるで、何もなかったように。