ページのすみで揺れていたもの

今日はちょっと久しぶりの夜勤。先週少し微熱が続き、日中は熱が下がってたため日勤はしていたが、夜になると微熱と身体のだるさがでていたため師長に相談し夜勤回数を減らしてもらっていた。

今週にはすっかり熱も下がり、以前よりも身体が動くんじゃないかってくらい元気になった。

日付が変わる前に救急搬送された患者さんの入院病棟へ送り、少し落ち着いた頃にはすでに深夜2時。

定時の巡回を終えてナースステーションに戻ると、リーダー看護師に休憩に行く様言われ仮眠室へ向かう途中、モニター室の灯りがひとつだけついている。
ソファには藤澤先生が座っていて、缶コーヒーを片手にぼんやりとモニターを眺めている。

「……休憩中ですか?」

声をかけると、彼はちらりとこちらを見て、小さくうなずいた。

藤澤「まあ。眠れそうにないだけ」

「同じです。さっきまでバタバタ動いてたから急に仮眠ってなると眠気こなくて。」

藤澤「俺なんてコーヒー飲んでさらに眠気遠ざけてるけどな」

そう微かに笑って彼は缶をひと口。


私はその隣に腰を下ろした。こうして並んで話すのは、初めてだった。

「この前、患者さんが“ここ、戦場みたいだね”って言ってて……笑っちゃいけないけど、確かにって思いました」

藤澤「たしかにな。戦場よりは血ぬれ率低いけど」

「そうとも言い切れないですよ、出血性ショック3件とか重なると……」

ふたりして、思わず小さく笑った。
こんなふうに笑うなんて、想像もしてなかった。

「先生、寝ないんですか? 当直なら少しは仮眠とった方が……」

藤澤「仮眠向いてない体質でね。頭が切り替わらないまま起こされるの、あんまり好きじゃない」

「それ、すごくわかります。半分寝ながら動くと、処置中に“これ夢じゃないよね?”ってなることあります」

また、ふっと笑ってくれた。
笑い方は少し不器用で、でもどこか懐かしさを感じさせた。

藤澤「……よくこんなとこで働き続けてるな。ここ、けっこうハードだぞ」

「……ここに来る患者さんって、人生の一番しんどいときに来るじゃないですか。だから、その瞬間を支えるっていうここの仕事がやりがいもあって好きなんですよね。変ですかね?」

藤澤は少しだけ目を細めて、こちらを見た。

「変かもな。でもやりがいなしに続けられないよな」

なんて軽く話していたら彼のコーヒーが終わったらしく
藤澤「そろそろ戻るかな」

「私もちょっと目閉じてきます。失礼します」

立ち上がった時少し立ちくらみでふらついたが笑って誤魔化しそのまま仮眠室へ向かった。

その後は救急搬送も何件かあったが、重症者は少なく何事もなく夜勤が終わった。