「今日はありがとうございました」
「いいえー、元気出してね」
「はい」
いい時間になり、お店を出た。
駅に向かおうとしたら、
「あ、ごめん。彼氏が車で迎えに来てくれるみたい」
「わーいいなぁー。羨ましい〜」
「ここで解散でも平気?それか優花ちゃんも途中まで乗ってく?」
「いや遠慮しときます、私は電車で帰ります」
さすがにそこまでお世話になれない。
「そっか、じゃあ気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
「また明日、会社でね」
「はい、お疲れさまです」
ペコッとお辞儀をして、私は一人歩き出した。
駅までの暗い帰り道。
頭に浮かぶのは、やっぱり空さんのこと。
予告もなしに急にいなくなった空さん。
理由を聞こうにも、連絡先を知らないから、どうすることもできないのが辛い。
空さんのことまだ何も知らなかった。
ご飯に行って、これから色々知りたかった。
私のことも知ってほしかった。
こんな形で失恋するなんて、思ってなかったよ。
倉持さんの言う通り、まだまだ引きずるな…きっと。
そう思いながら、曲がり角を曲がった時。
ちょうど向かいから人が現れて、びっくりした私は思わず「わっ」と声をあげてしまった。
「あ、すみません」
「すみませんっ」
謝りながら相手の顔を見上げた。
「……え、」
空さん、だ。
会いたいと思っていた空さんが、目の前に。
びっくりして、思わず固まる。
そして、私より少し遅れて目を上げた空さんと目が合った。
「えっ」
空さんも驚いたように目を見開く。
「優花さん…」
どうしよう。
いざ目の前に現れると、言葉が出ない。
気まずい空気になりかけたその時。
「嬉しいです、会えて」
「…え?」
「会えてよかった」



