策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


なにもかもが伊織の手配でつつがなく進み、あっという間すぎてバタバタした記憶すらない。

それでも伊織から『奥さん』と呼ばれると、嬉しくて口元がニヤけてしまう。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

土曜日の今日は役所は休みだが、時間外窓口にふたりで婚姻届を提出してきた。その帰り道に『初めての結婚記念日だから』と伊織が予約してくれていたレストランで食事をして帰宅したところだ。

午前中に引越し業者から荷物を受け取ったばかりで荷解きが途中の千鶴とは違い、伊織は先週からここに住んでいる。

四階建てのデザイナーズマンションは全八戸。居室は広々としており、千鶴の好みを取り入れたインテリアでまとめられたリビングは、まるでモデルルームのように洗練されていた。

長年実家で暮らしていた千鶴にとって、なにもかもが最新設備の高級マンションは贅沢すぎてそわそわしてしまう。

そして、そわそわして落ち着かない最大の理由は……。