策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


そんな誠実な挨拶をする伊織を、両親や兄は驚きつつも好意的に受け入れた。特に母は「パリで助けてくれたイケメン外交官との再会愛なんてドラマみたいねぇ!」と、少女のようにはしゃいでいる。

そして伊織はできるだけ早く入籍して一緒に暮らしたいと申し出て、千鶴よりも先に両親から同棲の許可をもぎ取った。あまりの手際のよさに、千鶴は口を挟む隙もない。

(伊織さん! そんなにすぐ一緒に住み始めるなんて聞いてませんっ)

心の中でツッコミを入れた、たった一ヶ月後。

千鶴はひだかから車で十分もかからない、有名なオフィス街の一角にある低層レジデンスへと引っ越しを終えた。

伊織の勤める霞が関に近く、結婚後もひだかで働き続ける予定の千鶴にとってもありがたい立地だ。

「改めて、今日からよろしく。奥さん」

伊織の家族にも結婚の挨拶へ行き、入籍も済ませたため、すでに千鶴は〝西澤千鶴〟となった。

今日は銀行やクレジットカードなどの名義変更で何度も名前を書いたけれど、いまだに自分が結婚したなんて信じられない気分だ。