「……もしも、私以外の人と結婚したくなったら――」
「そんなことは絶対にあり得ない」
きっぱりと否定され、千鶴は口を噤む。
いつもは優しい雰囲気の伊織が、逃さないとばかりに無言で選択を迫ってくる。
千鶴は彼の視線から逃れるように目を伏せると、必死に頭を働かせて現在置かれている状況を整理した。
伊織は千鶴と結婚しようと提案していて、千鶴は彼のことが好きだ。
彼にとってもこの結婚にメリットはあるし、千鶴は初めて好きになった男性と結婚できる。理想は愛し合っての結婚だけれど、これから少しずつ好きになってもらえるように努力すればいい。
今は愛されているわけではないとしても、伊織のそばにいたい。もっと彼を知って、千鶴のことも知ってもらって、互いを思い合って一生添い遂げたい。
理屈ではなく、本能がそう叫んでいる。



