策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「たしかに俺は情報ほしさに娘を嫁がせようとする要人を躱せるし、家庭を持って一人前という慣習が残る外務省で肩身の狭い思いをしないで済むようになる。千鶴はまだ諦めきっていないエリックから身を守れるし、憧れていた理想の結婚を実現できる」

『憧れていた理想の結婚』という言葉に、胸がドキンと大きく高鳴った。

千鶴の理想は、自分が『生涯その人だけ』と思える人と幸せな結婚をすること。

パリで伊織に出会って以降、どんな男性を見ても彼以上に胸をときめかせる人はいなかった。

もしもあの夜、伊織の誘いに応じていたらどうなっていたのだろうと想像したのは、一度や二度ではない。断ったのを後悔しなかったかと聞かれると、すぐには頷けないのが正直なところだ。

彼とこうして再会して、自分を守るために偽りの婚約者を演じてくれた優しさと頼もしさに、再び惹かれている。

「もちろん結婚後も仕事を続けていいし、家庭に入りたいならそれでもいい。家事は苦手じゃないし、煩わしい親戚付き合いもない。デメリットを上げるなら海外転勤があるという点だけど、ついてきてくれるかどうかはおいおい考えてくれればいい」

まるで企画のプレゼンのような伊織の弁を聞きながら、彼との結婚生活を想像してみた。