策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


〝誰と?〟と聞くのは愚問で、当然千鶴に決まっている。わかってはいるものの、口に出してみても現実味がない。

彼がどういう意図で『結婚したい』と言っているのか、千鶴は頭をフル回転させる。

今夜色んな人に話した婚約話を訂正するのが面倒だから、嘘をまことにしてしまおうと考えたのだろうか。

(まさか。さすがにそんな不誠実な人じゃないってことくらい、私にもわかる)

頭に浮かんだ考えをすぐに却下する。

では、伊織が自分にプロポーズしてきた理由は……?

千鶴にとって結婚とは、恋愛の延長線上にある。

相手が好きだからこそ、一生添い遂げようと結婚をするのだ。その理屈でいうと、伊織は千鶴を好きだということになる。

(いやいやいや、それはもっとありえない)

パリではスリに遭いかけているところ、先日は言葉の通じない客に絡まれてうまく対処できなかったところ、二度も情けない姿を見せているのだ。