策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


エリックの興味を千鶴から逸らすという目的だけのための芝居にしては大きくなりすぎて、この後どうするのか心配で仕方がない。

「私のためにすみません。婚約を解消したと伝える時は、私に瑕疵があったと言ってくださって構わないので――」
「千鶴」

千鶴の言葉を遮り、伊織が至極真面目な表情で見つめてきた。大使公邸で向けられていた甘い眼差しとは違い、真剣で鋭い顔つきだ。

「俺はこのまま、本当に結婚したいと思ってる」

一瞬、なにを言われたのかわからなかった。それほど伊織の発言は突拍子もなく、千鶴にとって想定外だった。緊張と戸惑いで、こくっと小さく喉が鳴る。

思ってもみなかった提案に、千鶴は母にそっくりと言われるまん丸な目を見開いた。

パチパチとまばたきをするたび、綺麗にカールしているまつ毛が存在感を主張してくる。いつもよりも濃いメイクをしているせいなのだが、今はそれどころではない。

「このまま、本当に結婚……?」

驚きすぎて他に言葉が出ず、たった今投げかけられたセリフをそのままオウム返しする。