実際、『もう婚約済みなのか』『まだチャンスはあると思ったが……』なんていう声も聞こえてくる。娘を伊織さんと結婚させたかった男性や、彼に好意を寄せていた女性の視線が痛い。
千鶴が不安にかられている間に、無事レセプションは終了した。
考えていた以上に多くの人が『伊織が婚約した』と誤解してしまったが、目的は達成された。これでエリックは今後、千鶴に言い寄ろうなんて考えないはずだ。
自宅まで送ってもらう帰り道、伊織に改めてお礼を告げる。
「今日はありがとうございました。伊織さんが婚約者を演じてくださったおかげで、エリックさんも私への興味を失ったと思います。でも……」
感謝とともに、やはり気になっていることを口にする。
「エリックさんだけじゃなく、みなさん本当に伊織さんが私と婚約したと誤解されている気がします」
千鶴にとっては今日限りで会わない人がほとんどだが、伊織にとっては仕事相手ばかりだ。



