「千鶴と出会って変わったんだよ。形振り構っていられない」
「ははっ、ベタ惚れだな」
「お前達だって、奥さんには似たようなもんだろ」
小気味よいテンポで言い合っているが、千鶴は雨宮の言葉に違和感を抱き、内心で首をかしげた。
伊織は半年前の出会いからずっと紳士的で優しい。雨宮の言う『策略家で腹黒』というイメージとはかけ離れている。
けれどずっと同期として切磋琢磨してきた彼らが言うのなら、千鶴の知らない一面があるのだろう。本物の婚約者ではないのだから当然だ。それどころか会ったのは今日でまだ三回目で、知っていることの方が少ない。
そう考えると、なぜか無性に寂しく感じた。
「まぁ、とにかくおめでとう。式を挙げるなら呼んでくれよ」
「あぁ。もちろん」
偽りの婚約者役に寂寥感を覚える千鶴をよそに、伊織はどんどん嘘を重ねていく。
先日彼は『そこまで大きな集まりではない』と言っていたけれど、伊織が婚約したという話は想定以上に広まっている気がする。
