策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


千鶴はちらりと伊織を見上げた。

(伊織さんのお友達なら、本当のことを話しても大丈夫ですよ)

そう思って笑顔で小さく頷くと、彼も微笑み返してくれる。

「この通り、俺の婚約者はめちゃくちゃ可愛いからね。自慢したくて仕方ないんだ。そのついでに周囲を少し牽制しただけだよ」
「い、伊織さん……!」

千鶴は慌てて彼の名を呼んだ。

(そうじゃなくてっ! どうしよう、全然伝わってない。同じ職場の人にまで婚約したなんて話したら、訂正が大変になっちゃうのに……)

すると城之内と雨宮は顔を見合わせ、堪えきれずに噴き出した。

「西澤がここまで女性に惚れ込むとはな」
「人当たりのいい穏やかな顔をしてるけど、実はいちばん策略家で腹黒だもんな。恋愛には興味ないのかと思ってたよ」

付き合いの長いふたりも、伊織が本当に千鶴に好意を抱いていると疑っていないらしい。そのくらい、彼の演技は完璧だった。